立石敬之氏

日本人選手が多く所属することで知られるシント=トロイデンVV(以下、STVV)。冨安や遠藤、鎌田といった現在、日本代表として第一線でプレーしている選手たちもかつて同クラブでプレーしており、そこでの活躍がスカウトの目に留まってステップアップを果たした。

現在も香川真司や岡崎慎司といった日本人のスター選手が所属しており、非常に注目度が高くなっている。

そこで、この度インタビューさせていただいたのは、シント=トロイデンVVを率いる立石敬之氏。CEOとして経営されて5年目となる。

日本人選手も多く獲得しており、順風満帆のように見えるが、ここまでの道のりは決して簡単なものではなかった。当時ベルギーのクラブには、日本どころか海外のオーナーすらほとんどおらず、風当たりも強かったという。

ではどのようにして今の地位を築き上げたのか。

当時の苦労から海外でクラブを運営する際の難しさ、現在のベルギー国内での注目度までさまざまな実情に迫る。

慣れるというか、こちらが合わせるのに時間がかかりました

立石敬之氏

Q. 立石さんはSTVVのCEOとして経営されて今年で5年目かと思いますが、ここまでの道のりで運営面や強化面を含めて苦労されてきたことがあれば教えて下さい。

運営面に関して言えば、やはり日本人の働き方とヨーロッパの方の働き方があまりにも違うので、最初は驚きました。私たちも順応したり工夫したりするのに1、2年かかりました。

しかし、サッカーチームを運営したり作ったりという部分に関しては大きな違いはありません。チケット収入・スポンサー収入・放映権収入・グッズ収入という幹は同じです。

ただ、移籍金収入という面は、日本のマーケットとヨーロッパのマーケットで大きく異なります。これは、我々の強みでもあります。Jリーグだとフリーでの移籍が多く、あまり移籍金が入りません。収入源の幹がもう一つあるような感じです。

Q. 働き方の文化の違いとは具体的にどのような感じですか?

まずは労働組合が強いこと。要するに雇用主より労働者の方が権利が強く、守られているのです。17時になると皆一斉に帰ります。

最初衝撃的だったのは、トレーナーさんの動き。日本だと、例えば練習が15時に始まって17時過ぎになっても選手が残っていればトレーナーさんも残りますよね。しかし、ベルギーでは17時になるといなくなってしまいます。

もちろんビジネススタッフは17時になると誰もいません。一番びっくりしたのは、サッカーの興行で書き入れ時である土日でも、「僕らは働かないので」「家族との時間が大事なんで」ということを希望してくることです。

また、ヨーロッパにはサマーホリデーがありますが、シーズン開幕1週間前でも「夏休みを取ります、有給なんで」と言われます。「その時期に取るんだ」という衝撃はありました。権利としてはもちろんありますが、日本人なら空気を読んであえてそこを選ばない人が多いでしょう。

そこで「だめだよ」と言ってしまうと、労働組合が出てきたりして複雑になってしまいます。慣れるというか、こちらが合わせるのに時間がかかりました。

ベルギー国内では日本人は”トレンド”になっている

 

Q. 最近はベルギーリーグに多くの日本人選手が進出しており、今シーズン1部では12名がプレーしています。ベルギー国内からの日本人に対する見方は変わってきていますか?

大きく変わりました。今でこそ18クラブ中10クラブ以上が海外オーナーであるため、皆慣れています。しかし、当時は海外のオーナーが少なく、最初は「日本人経営者など3年でいなくなるだろう」という報道が全国紙でも流されましたし、「日本人選手などそんな価値がない」とも言われました。

それでも、僕たちでいう第1期生(冨安健洋や遠藤航、鎌田大地)が頑張ってくれて、国内でのサプライズになりました。成績もよかったですし、冨安選手と遠藤選手は、高額な移籍金で出ていったので、そこから他のクラブも一斉に日本人選手を探し始めた印象です。

ちなみに、今ベルギーリーグでは、ベルギー人は当然のごとく多いですが、2番目は地理的に隣のフランス人、そして3番目に多いのが日本人という状況になっています。ベルギー国内では日本人は”トレンド”になっており、どのクラブも日本人を探しているようです。

Q. 日本人選手で評価されている部分は?

まずは規律をしっかり守ること、そしてチームのために戦います。ベルギーは個性の強い選手が多いですが、その中でいうと日本人はしっかりチームのためにやってくれますし、試合に出ていても出ていなくてもきちんとやります。

もちろんプレーにおいても技術はしっかりしています。フィジカルは若干足りなかったりしますが、計算しやすいのではないでしょうか。すぐ即戦力になってくれるという意味で監督としても使いやすいのでしょう。

 

Q. ここ最近でのベルギー国内からのSTVVに対する注目度を教えて下さい。

一つは見る目が変わりました。選手としての質という部分で信頼を勝ち得たと思います。

ビジネス面で言うと、おそらく僕たちが日本からどれくらいのスポンサー収入を得ているかなどは見られているはずです。

ベルギー人たちは、僕らの収支を見て、「日本人選手が活躍すれば日本からスポンサーが付くのではないだろうか」と探っているのではないでしょうか。

あとは、選手たちが数億円で売れるのを見てきているため、そういう意味では日本人選手も投資の対象になっているという感覚はあります。

だからこそ、若い選手が次々に引き抜かれているとも言えるでしょう。最近で言えば、湘南ベルマーレからコルトレイクに20歳の田中聡選手が移籍、そして昨年末から渡辺剛選手が所属しています。

コルトレイクは元々そのようなタイプのクラブではありませんでしたが、そんなコルトレイクですら複数の日本人選手を獲得しており、少し驚いています。

日本とヨーロッパのサッカー以外のビジネスの繋ぎ役になれるような存在に

Q. 今後STVVをどんなチームにしていきたいとお考えでしょうか?

まずは、当初からの理念、プロジェクトの根幹になる理念は崩せません。日本人選手のステップアップの場になりたいですし、スタッフのステップアップの場でもありたい。その辺はしっかり続けていきたいと思います。

今回は2022年カタールW杯が一つの区切りなので、次は2024年パリオリンピックに向けて対象となる選手たちを強化していきたいと考えてます。

あとはせっかくヨーロッパにあるので、日本とヨーロッパのサッカー以外のビジネスの架け橋になるような、繋ぎ役になれるような存在でありたいと思います。

最後に、やはりチームとしてCLやELといったヨーロッパ最高峰の舞台に立ちたいですね。

STVVラウンジ

今回の取材場所はオープンしたばかりのSTVV LOUNGEにて行わせて頂きました。

常に流行の先端をいき、成長し続ける街・渋谷に、サッカーベルギー1部リーグ所属シント=トロイデンVVの公式レストランバーがオープンしました。

ラグジュアリー感溢れる内装デザインや、こだわり抜かれた料理とともに、素敵なひと時をお過ごしください。

店名:STVV LOUNGE(エスティーヴィーヴィーラウンジ)
所在地〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町32-7 HULIC &New UDAGAWA 5F
営業時間:17:00〜23:00(ラストオーダー:フード22:00、ドリンク22:30)
定休日:日曜日、月曜日
席数:45席

STVVラウンジ公式サイトはコチラ(https://stvvlounge.jp/

STVVラウンジ

シント=トロイデンVV(STVV)とは

1924年創立のベルギー・プロ・リーグ1部に所属するサッカークラブ。 2017年11月に合同会社DMM.comが経営権を取得。2018年に元FC東京GMの立石敬之が最高経営責任者(CEO)に就任。

5つの柱として、トップチームの強化・アカデミーの充実・新たな事業スキームの構築・スタジアムの拡充・IT導入による技術革新を掲げている。

シュミット ダニエル選手(前所属ベガルタ仙台)、橋岡大樹選手(前所属浦和レッズ)、林大地選手(前所属サガン鳥栖)、香川真司選手(前所属PAOKテッサロニキ)、岡崎慎司選手(前FCカルタヘナ所属)が所属。

2021-22シーズンは勝ち点51の9位で終了した(15勝6分13敗/得失点+2/42得点40失点)。

立石敬之

立石敬之氏

【経歴】

1969年生まれ。

長崎県立国見高校時代に全国高校選手権優勝。ブラジルに留学後、ベルマーレ平塚、東京ガス(現FC東京)、大分トリニティ(現トリニータ)でプレー。引退後は大分トリニータでコーチ、同強化部長、イタリア・ベローナのトップチームコーチを務め、その後FC東京強化部、2015年よりゼネラルマネージャーを歴任。

2018年よりベルギー1部シント=トロイデンVV CEOに就任し、ベルギーでチームを統括。

2019年からアビスパ福岡の経営顧問(2021年よりエグゼクティブ・アドバイザー)、2020年にJリーグ理事(非常勤)に就任し、欧州での経験を日本サッカーへ還元するだけでなく、2020年10月から経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員として、子どもたちを取り巻くスポーツ環境の課題解決にも取り組んでいる。