あなたは『サッカー』といえば何を想像するだろうか。メッシのドリブル、デブライネの鋭いパス、ファンダイクの鉄壁のディフェンス、クルトワのスーパーセーブなどを頭に浮かべる人が多いかもしれない。

しかし、実はサッカーは決してピッチ上での選手のプレーだけではない。選手のエージェント、クラブの経営陣、マーケティング担当、選手のSNS管理担当、理学療法士、フィジカルトレーナー、スカウティングなど様々な要素が集まって『サッカー』が成り立っていると言っても過言ではないだろう。それぞれが重要な役割を果たしており、どれも欠かせることのできない存在だ。

今回の記事では、それらの中でも『スカウティング』に焦点を当てて説明していこう。話してくれるのは、FCバルセロナの下部組織『ラ・マシア』のアシスタントコーチも務めたことのあるキム・ラモン氏。

スカウティングとは?

スタジアム


スカウティングとは、簡単にいえば相手チームの分析を行うこと。選手を獲得する前に、プレースタイルがチームにフィットするのか、選手の性格がチームメイトと合うのかなどを分析する。

スカウティングには2つの大きな項目があり、一つは技術スタッフが行う戦術分析、もう一つはテクニカル部門が行う選手のスカウトだ。テクニカルディレクターは部門の責任者であり、スカウトの指揮や調整のみならず、予算の調整なども行う。

スカウティングの各段階


スカウティングは4つの段階に分けて行われる。

1.ディレクション

2.情報収集

3.資料作成

4.選手獲得

ディレクション


ディレクションは、『プランニング』と『オーガナイズ』の2つの要素で構成されている。

プランニングでは、チーム全体や市場、参加している大会を分析して評価する。ただただ分析するだけではなく、クラブの歴史や環境、哲学にも精通している必要があるという。例えば、ラ・リーガのアスレティック・ビルバオはバスク地域出身の選手しかプレーできないという伝統があるため、カタルーニャ州の選手を調査することは時間の無駄になるのだ。

続いてプレーの分析も行う。チームのプレースタイルがポゼッション重視でショートパスを多用する場合、それにあった選手を獲得する必要がある。例えばバルセロナが、足元の技術に乏しい大柄の選手を獲得しても、チームに合わない可能性が高いだろう。

ディレクションの最後には、予算に見合った適正のある選手を絞り込むことになる。

情報収集


2つ目の段階は『情報収集』。実際に試合を見に行って選手の分析を行う。この際、ボールを持っている選手のみに注目するだけではなく、ボールがない場所も見る必要があるのだ。例えば、センターバックが前線にロングフィードを送ろうとしているのに中々送らない。そのような際、フォワードを見るとマンマークをされているのか、はたまたその選手のポジショニングが悪いのかが分かる。

試合観戦における分析は3部構成になっている。試合開始後15分はチームのプレースタイルや選手の大まかな動きを総合的にチェック。15分から80分は、選手をより細かく分析し、優れた選手を探し当てる。そして残りの時間は、メンタル面を確認する。ビハインドの時にいかに前向きにプレーしているかなどをチェックするのだ。

資料作成


3つ目の段階は『資料作成』。ここでは『試合レポート』と『選手レポート』を作成する。集めた情報をデータベースに登録し、選手を正しく分析・比較・評価する。近年は、ビッグデータと連動したツールを利用して、データを包括的かつ自動的に処理し、資料作成班以外のメンバーもアクセスできるようになっているという。

ビッグデータとは、大量のデータの蓄積と管理ができる技術のこと。スピードやスタミナなどを数字で細かく記し、身体的側面のみならず戦術的側面も分析できる。

選手獲得


4つ目の段階は『選手獲得』。一般的にスカウトといえばこの部分が注目されるだろう。ここでは、プロセス、選手選択、チーム編成に基づいたスカウトが行われる。

選手の選択という意味では、チームのプレースタイルやニーズに合っているか、選手の将来性があるかなどが注目される。一方でチーム編成に関しては、スタメンに出られそうな選手や戦術理解の早い選手、リーダーシップのある選手などをチーム状況を元に選ぶ。

未成年者の国際移籍に関するFIFA規則

ユースサッカー トレーニング

最後に、海外の未成年選手の獲得に関する注意点をご紹介しよう。FIFAの規則により基本的に未成年選手の国際移籍は禁止されており、18歳以降でないと認められないということを念頭においていただきたい。

ただし以下の例外が認められている。

①選手の両親がサッカーに関係のない理由で新クラブの本拠地となる国に移住した場合

②移籍が欧州連合または欧州経済地域の領域内で行われ、選手が16歳から18歳の場合

③選手の自宅が国境から50km以内にあり、海外のクラブも50km国境から以内にある場合

※②に関しては、移籍先クラブは次の最低限の義務を果たす必要がある。

1. 選手に、国内最高水準に適応するサッカートレーニングまたはコーチングを提供すること。

2. 選手に学校教育が保証されること。

3. 選手が可能な限り最善の方法で新チームに慣れるため、必要なすべての手順を踏むこと(家族やクラブの宿泊施設での最適な生活環境など)。

4. 選手は国境から50km以内の場所に自宅があり、新クラブも国境から50km以内の場所にあること。選手の自宅からクラブまでの距離は、最大で100kmとする。

まとめ


以上がサッカーにおけるスカウティングの主な項目となる。一言で『スカウト』と言っても様々な役割があることを理解していただけただろうか。さらに映像で詳しく学びたい方は以下の『eラーニング』の動画をご覧いただきたい。