RBライプツィヒ

21世紀大躍進のライプツィヒ


ライプツィヒは、レッドブルに史上初の欧州トロフィーを与えることを夢見る。アタランタを破ったことで、ライプツィヒは2020年のチャンピオンズリーグに続き、ヨーロッパリーグで2度目の欧州大会の準決勝に進出したことになる。

決勝まで進出するとブンデスリーガのライバル、フランクフルトと戦うことになるかもしれない。準決勝に勝利すれば欧州大会での初めての決勝進出にもなり、あるいは優勝すれば欧州大会の初タイトルになる。いずれにせよ今年はオーナーのレッドブルにとって歴史的な年になる可能性があるのだ。

長年にわたって多くの批判を受けながらも、ライプツィヒは、特にピッチ上で、オーナーの富による恩恵を超えた前向きなスポーツマネジメントの例である。

フォーブスによればライプツィヒのオーナー、レッドブルのCEOディートリッヒ・マテシッツ氏は長者番付で51番目の富豪で、274億ドル(約3兆5262億円)の資産を持ち、確かにクラブの支えにはなっているが、このクラブの成功は決してそれが要因ではない。

ライプツィヒが初めて欧州大会の準決勝に進出し、サッカー界でもトップに立つという目標を達成したのはここ数年の話だが僅か十数年遡れば歴史のスタートが見えてくる。2005年はこれまでエクストリームスポーツに集中していたレッドブルがサッカー界に初めて参入してきた年でも有名だ。

サッカーとF1の同時参入


レッドブルは2005年に「オーストリアザルツブルク」を購入し、クラブの歴史を白紙に戻すかのように名前も「レッドブル・ザルツブルク」に変え、クラブを転生させた。

ザルツブルク買収の1年前には、レッドブルはF1から撤退し、当時残骸に等しかった「ジャガー・レーシング」を購入。「レッドブル・レーシング」と改名し目新しさを狙った全面的なリブランディングを行った。そして2005年にF1から撤退したチームを再びF1の世界へと戻した。

2009年、RBライプツィヒ始動


2005年がF1とサッカーのダブルエントリーであるとすれば、2009年はターニングポイントの年として記憶されるかもしれない。

F1では、この年からセバスティアン・ベッテルという選手がレッドブルに移籍。そんな彼はF1世界ランキングで2位となっており、これはレッドブルによる革命がすでに始まっていることを意味している(彼は今後4つのタイトルを獲得する)。

一方で、レッドブルはドイツに上陸し、複数クラブと買収の交渉をするが失敗に終わる。そこで行きついた先がライプツィヒだった。

旧東ドイツの都市では、ランダムにクラブを選んだわけではなかった。レッドブルは、ファンの間でのオーナーの評価を下げる必要がないように、どんなタイトルにしろ獲得できるクラブを狙っていた。その結果、ライプツィヒから13キロ離れた町にあるマルクランシュテットに決定した。

2009年7月13日、チーム名が承認され生まれ変わったRBライプツィヒ(RasenBallsportの略。ドイツ語で「芝生の上の球技」と言う意味。ブランド名の挿入が禁止されているためRBだがレッドブルではない)は、初戦のバネウィッツとの親善試合を地元マルクランシュテットのスタジアムで5-0で勝利した。

そこから今季につながる上昇が始まり、7シーズンでオーバーリーガ(5部リーグ)からブンデスリーガに至るまで4回昇格し、2010年から4万4000人収容のレッドブル・アリーナに移行。チャンピオンズリーグ、もしくはヨーロッパリーグに4年連続で出場するチームにまで上り詰めた。

設立から11年でチャンピオンズリーグの準決勝に進出したクラブは史上初だ(それまでの記録は1945年設立のレッドスターで12年、1957年、当時のチャンピオンズカップの準決勝に進出)。

リザーブチームからライプツィヒへのシステム


ハーゼンヒュットルが指揮を執る中、スポーツディレクターを2シーズン務めたラングニックは、18-19シーズンにライプツィヒの監督に復帰した。そのシーズンはブンデス3位でチャンピオンズリーグ出場権獲得に導いた。

ラングニックは2019/20シーズンまでは、レッドブルのスポーツ・開発サッカー部のリーダーとして、ザルツブルク、レッドブル・ガーナ、フースボールクラブ・リーフェリングを加え、レッドブル関係のサッカークラブのポートフォリオを構成するRBライプツィヒ、ニューヨーク・レッドブルズ、レッドブル・ブラジルを筆頭に、巨大なサッカーセクションをコーディネートしていた。

そこでは各社が一種のトライアルとして、またプレーヤーの踏み台として、強く結びついたシステムが構築されている。例えば、ザルツブルクがイストルから買い取ったフランス人選手ナビー・ケイタは、2シーズン後にライプツィヒに移籍し、そこからリバプールに移籍している。

さらに特定していくと現在バイエルンに所属しているウパメカノもだ。ザルツブルクがヴァランシエンヌから17歳の彼を購入。その後リーフェリング(実際には、ライプツィヒのリザーブチーム) に彼を売却し、活躍するのと同時にライプツィヒ、バイエルンとキャリアステップしていった。

現在ウルヴスのファン・ヒチャン、ライプツィヒ所属のライマー、タイラー・アダムスも同じようにレッドブル所有のクラブから来ている。

一方で、ライプツィヒのために直接購入したタレントもいる。2016年、ライプツィヒはティモ・ヴェルナー(2020年夏、6000万ユーロでチェルシーに売却)に1000万ユーロをかけ、最近のシーズンでは、コナテ、ダニ・オルモ、アンヘリーノ、グヴァルディオール、エンクンクといったタレントがそろっている。

ライプツィヒの経済的成長


レッドブルは主に融資によってクラブへの資源を保証している。実際、融資に対する株主への未払金の額が、2014年の2000万ユーロから2017年のピーク時には1億3400万ユーロにも膨らんでいることは偶然ではないだろう。ところが2020年の6800万ユーロへ減少しているのは、レッドブルが数億ユーロの融資を株式化することを決定したためである。

このように、経済的な面でレッドブル社の支援による成長が見られるが、100%レッドブルの恩恵というわけでもない。

ライプツィヒの、2015年の決算から2020年(最新のデータ)までの売上高の伸びは、キャピタルゲインを含む収入で8100万ユーロから3億2230万ユーロと、ほぼ300%に達している。

同様に、賃金や減価償却費も売上を上回る勢いで伸びており、コストは急騰。2019/20シーズンのスタッフと選手のコストは、2億900万ユーロに相当している。ELの準々決勝で対決したアタランタは2021年の予算で賃金と減価償却費は9300万ユーロに相当していることから、ライプツィヒのコストの大きさがわかる。

しかし、ハイコストを計上しているこれらの決算でもライプツィヒは常に利益が出ている状態であり、2014年からの累計で920万ユーロを計上している。

レッドブル – ライプツィヒのモデルと批判


しかし、この功績に対して称賛の嵐というわけではない。オーストリアとドイツの間では、レッドブルのサッカー界への参入は、オーストリア・ザルツブルクの歴史を事実上帳消しにしたブランド変更から、50%+1ルール(クラブ株式の過半数が企業の手に渡ることを禁ずるルール)の回避に至るまで、膨大な議論を呼んでいる。

歴史もなく、地元に根ざさない「プラスチック・クラブ」というのが、ここ数シーズンのライプツィヒにつきまとう大きな批判の一つである。この蔑称は、「プラスチックのように人工的に作られたクラブ」という皮肉からきているという。

2020年、ドイツのスポーツ月刊誌『11 Freunde』は、同クラブのチャンピオンズリーグ準決勝を報道しないことを決めていたほどだ。当時「彼らの成功は、コンピューターゲームでカンニングする子どもを連想させる」と批判されていた。ライプツィヒのチーム編成にはロマンがない。ライプツィヒは「ドイツで最も嫌われているチーム」というニックネームを持つほど、アウェイゲームでの評判は最悪なものとなっている。

さらに、レッドブルがザルツブルクとライプツィヒの両クラブと関係があり、カップ戦で両クラブが参加する可能性があることを考えると、UEFAの規約も忘れてはならない。

しかしUEFAによると、2017年以降、ザルツブルクにおけるレッドブルの影響力は著しく低下しており、取締役会にはレッドブルとつながりのある(同時にライプツィヒにも関与していた)人物も外され、さらにレッドブルとつながりのあるBoDの会長も辞任していた。

また、ザルツブルグとレッドブルのスポンサーシップ契約も修正(スペースや数字を縮小)され、両クラブ間のパートナーシップ契約や各種ローンも終了していたようだ。

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