加賀山泰毅

今回は加賀山泰毅(かがやまたいき)選手にインタビューをさせていただいた。現在27歳の同選手は、関西大学卒業後、日本でのプレーを経験せずに海外へ飛び立った。

最初に向かったのは北欧フィンランド。そこで3年プレーしたのち、マレーシアへ移籍。そして今年から東欧ジョージアのFCサムグラリ・ツカルツボというチームでプレーしている。

フィンランド、マレーシア、ジョージアと日本ではあまり馴染みのない国で活躍する加賀山選手。文化や気候がそれぞれ全く異なるため、アジャストするのに苦労した部分もあったという。

そんな中で、ジョージアのトップリーグでは日本人選手として初ゴールをあげるなど、活躍をみせており、現状チームも3位。このままいけば、カンファレンスリーグ予備予選への出場も可能となる。

それでは、海外へ挑戦することとなったきっかけ、海外での順応方法、そして将来の夢や目標について深堀していこう。

大学卒業後すぐに海外挑戦。北欧フィンランドへ

━━━大学卒業後すぐに海外挑戦することとなった理由やきっかけを教えてください。

僕は、関西大学でプレーしていたのですが、3回生の時にインカレの全国大会に出場し、二回戦、準々決勝、準決勝と3試合連続で点を取りました。

僕としては全国でやれたという手応えもありましたし、得点という結果も残せました。その後、3回生から4回生にかけての冬の時期にキャンプに呼ばれるなどJからのアクションがあるかなと思っていたのですが、最終的にそのようなアクションはありませんでした。

このタイミングで、「日本より海外の方が需要があるのではないか」と思い、この辺りから海外を現実的に見据え始めました。

加賀山泰毅

━━━フィンランド移籍へはどのような経緯だったのですか?

夏にスウェーデン1部のチームのトレーニングに参加させていただくことになりました。そこで、ある程度の評価をもらえた上に、自分の中でもできるという感触があったので、このタイミングで海外一本に絞る決断をします。

その後、フィンランドのチームのトライアウトを受け、入団したという流れです。高校生の頃のコーチがスペイン人で、その人とつながりがあったのがフィンランドのクラブだったのです。

「国によって求められる特徴が異なる」臨機応変さが加賀山選手の強み

━━━得意なプレーや長所を教えてください。

僕の長所は攻撃面・守備面含めてなんでもできるところです。プラスで戦術理解やゴール前に入り込んでワンタッチでゴールを奪う部分も特徴だと思います。

ただ、実は個人的に、長所というのは環境によって変わると思っています。国が変われば体格やサッカー観が変わります。

ピッチ外の面も考えると、国が変わってもチームが変わっても、適応して中に入り込めるというか自分自身を出せるのが強みだと感じています。

━━━国によって変わるという面でいうと、フィンランドやマレーシアなどはかなり違いがあると思うのですが…?

そうですね、フィンランドは大きい選手が多かったので、その分自分のクイックネスの部分がかなり活きたと思っています。

日本にいる時は僕は特にドリブラーという訳でもなかったのですが、フィンランドでは求められる部分が違いました。自分がこれまで持っていた特徴を上書きしていくことが必要だと感じます。

逆にマレーシアでいえば、どちらかといえば体格が似ているため、僕はクイックネスよりフィジカル面を重視されたと思います。あとは、クオリティやサッカー理解の部分。オフザボールでのポジショニングやハードワークなどです。

マレーシアはハードワークできる選手が少ないので、チームに貢献する選手という面では日本人は重宝されるのではないかと思います。

加賀山泰毅

━━━今のジョージアはどのような特徴がありますか?

勢いがあるチームが多い気がします。戦術的にどうこうというよりは、勢いや個の力が重視されるような国だと思ってまして、若手のタレントのある選手が多いイメージです。

それこそナポリで活躍してるクワラツヘリアのような、自分でボールを持てばとにかく前に前に行って、そしてハードワークして走ってというような選手が多いです。彼がジョージア出身というのがよく分かります。ジョージア人全体があのような感じです。

━━━ハングリー精神がすごいのですか?

とても感じます。特にウィンガーの選手はどこのチームも速くて仕掛けられる選手を置いているような気がします。

━━━それは国民性なのか、それともクワラツヘリアがアイドルとなっているのでしょうか?

おそらく国民性ですね。ジョージアに来て感じるのですが、ジョージア人は話し方などとてもアグレッシブなんです。言語が違うので内容は分かりませんが、普通に話していても喧嘩に聞こえます。

気になる生活面。各国の気候や言語は?アジャストは意識次第

━━━英語は通じますか?

ジョージアの首都トビリシでは話せる人が多いらしいのですが、僕のチームに関してはそこまでです。今はチームに20人強いますが、しっかり英語を話せるのは2、3人です。あとは、単語単語で切って話すくらい崩さないと理解されないです。

━━━フィンランドやマレーシアはどうでしたか?

フィンランドではほとんど皆話せました。チーム内の共通言語は英語でしたし、スペイン人の監督も通訳介さずに全体ミーティングを行うような環境でした。

街でカフェに行った時も最初はリスペクトも込めてフィンランド語で話しかけてくれるのですが、僕が英語で返すと全員がスッと切り替えます。

マレーシアに関しては、ジョージアとフィンランドの間ぐらいの感じです。半分はしっかり話せて、残りの半分はコミュニケーションは取れるが苦手意識があるというような感じです。英語を話すこと自体にシャイになる人は半分ぐらいいます。

━━━言語面を含め、どの国が一番過ごしやすかったですか?

僕が一番最初に行ったので気づいていませんでしたが、今振り返ってみれば圧倒的にフィンランドですね。話し合いも非常に建設的で、プレーの話をするときも言い合いではなく、お互い改善策を出せたりできるんです。

━━━その面でいうと、選手としてはやりやすいのではないでしょうか。

そうですね。逆にマレーシアやジョージアでは、合わなかった部分をすり合わせたいという意図で話していても、向こうからすると文句を言われたと感じているのか、もう話したくないというオーラを感じます。

加賀山泰毅

━━━3ヵ国の気候はいかがですか?

フィンランドは気候に関しては完璧です。リーグが4月から11月くらいなのですが、夏でも25℃ぐらいまでしか上がりません。4月はもう氷点下ではありませんし、寒くても5〜10℃ぐらいです。10〜25℃までの中でシーズンを全部戦っていくことになるので、かなり戦いやすかったです。

一方でマレーシアは30℃。常夏の国なので、毎日30〜35℃であり、かつ湿度も高いです。フィンランドから移籍してから最初の1、2ヶ月はとても大変でした。

━━━どのように適応しましたか?

もう慣れしかなかったです。暑いからと言って普段やってることをやらなければそれに慣れてしまいます。なので、自分で意識持ち、厳しい中で一本スプリントやり抜くとかでアジャストしていったという感じです。

━━━ジョージアはいかがですか?

ジョージアは、日本とよく似た感じです。ただ、夏はとても気温が上がるらしく、ちょうど僕が住んでる地域では40℃、本当に暑い日は42℃くらいまでいくと聞いています。

ジョージアトップリーグで日本人として史上初ゴールを記録

加賀山泰毅

━━━加賀山選手、ジョージアトップリーグで日本人として初めてゴールを決めたとお聞きしたのですが、お気持ちはいかがですか?

正直、僕自身その辺の情報を全く知らずにジョージアへ来ました。日本人として、初めて未開の地を切り開いたという面では誇りに思う部分があります。

ただ、今季が1シーズン目ですし、シーズンもまだ半分ぐらいです。まだまだ自分自身もできると感じているので、満足はしていませんが、嬉しいという気持ちはあります。

━━━これまでに海外でプレーしてうまくいったなと思うことは何かありますか?

個人としては毎回もっとできるなと思うんです。それでも、どのチームに行っても基本的にタイトルを狙える位置にいます。

例えば、ヨーロッパのカンファレンスリーグやマレーシアの場合だとAFCカップの出場権を取れるような位置でフィニッシュできたというところは、自分の数字が飛び抜けてなくても、僕が入ってチームに貢献しているという見方もできると思います。

そこに関しては、成功とまではいかないですが、うまくいっている部分ではあると思います。

「国ごとに共通認識が異なる」異国の地でプレーすることの難しさ

━━━逆に、海外でプレーすることの難しさ・苦労している点、挫折した経験などがあれば教えてください。

共通認識の違いでしょうか。どこの国に行っても様々な違いは感じますし、もちろん文化が違えばパーソナリティも変わってきます。もちろん言語も違います。そうなると根付いている共通認識も異なってきます。

サッカー面においてもそうです。日本の当たり前と各国の当たり前は異なります。そこをどのようにすり合わせていくのか、自分がそこにアジャストするだけなのか、話し合いをしてこっちの意見を理解してもらうのか。その話し合いが平行線を辿るのであれば、お互いの妥協策を探す必要があります。

選手間でもそうですし、一選手として対コーチっていう面でもそういう場面が出てきます。100%納得しなくてもやらないといけない状況というのは、日本の時よりも感じます。

━━━共通認識の違いで言えば、ジョージアの個が強いプレーと日本のパス重視のプレーの違いもそうですか?

これに関しては日本が特殊なのかもしれないです。フィンランドでプレーした時も、もっと自分で行けと言われました。

また、日本人の癖として、上手くいかなかったプレーの後に「ごめん」と言います。日本人としては本気で謝っているわけではないと思うのですが、海外の人からすると本気のごめんになるんです。スペイン人の監督には、「毎回100%のプレーができるわけではないのだから、ごめんって言うな」と言われましたね。

僕も日本人としてのごめんの意味合いを説明し、監督も理解はしてくれましたが、聞きたくないと言われました。「自信がないように感じてしまう。気にしなくていいから」と。

ごめんと言う必要なくなると、もっと自分でいけたりする感覚があります。欧州の選手は元から備わっているので、ミスをしても自分に対する怒りが出てきます。

加賀山泰毅

3年間フィンランドでそのメンタリティを植え付けられた上でマレーシアに行くと、また文化が全く異なります。マレーシアは年功序列の文化がすごく、若い選手は年上の選手に口答えできないんです。ピッチ上でもそうなんですよ。

日本では、ある程度ピッチ上では年齢は関係ないという考えが普通だと思います。一方で、マレーシアではレジェンドに対しては本当に敬わなければなりません。若い選手が口答えしているのは見たことがありません。

実はマレーシアでは、名前にニックネームみたいなものがつくんです。英語の『サー』のようなものが名前の頭に与えられて、それがついていたら皆敬う必要があります。僕のチームのコーチにもついていました。

━━━サッカー面ではやりにくさもあるのではないでしょうか?

そうですね。コーチには何も言えません。文句とかではなく、選手目線の意見をシェアした方がチームとして良い方向に向かうと思うのですが、それをするととても変な目で見られることが多かったです。

ただ、実はジョージアでもその気があり、例えば、戦術的な落とし込みをしている時に意見を言うと怒られることがあります。文化の違いだとは思いますが、コーチはコーチらしくないといけないといった考えがありそうです。

僕は、日本でも自分が思ったことは伝えてきましたし、フィンランドでも思ったことは伝えてきました。それを受け入れられてきた20数年間だったので、マレーシアの時は少し苦労しました。

「欧州大会に出場、個人としても数字を残す」加賀山選手の今後の目標

━━━最後に、今後どのようなキャリアを築き上げていきたいとお考えでしょうか。

まず、今回ジョージアに戻ってきた理由として、ジョージアはヨーロッパに属しているのですが、僕自身チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグ、カンファレンスリーグの本選に出場して、高みを目指していくというところを諦めてないからです。チームとして結果を出すことはもちろんですが、個人としても目に見える数字を残していきたいです。

僕が今所属しているチームは予備予選から勝ち抜いていく必要があるため、なんとか勝ち抜いて本選に出れるように頑張ります。

実は、二年間一緒にプレーした僕のフィンランド時代のチームメイトが、国内移籍(HJK)をして、去年ヨーロッパリーグの本選に進んだんです。彼は、同じグループでレアル・ベティスやローマといった世界トップレベルのクラブと戦いました。一方で僕はマレーシアです。

このような現実を見たときに、やはり自分が一番求めている環境・場所に近いところでプレーしないといけないと思い、ヨーロッパに戻ってきました。

━━━ちなみに対戦してみたいクラブはありますか?

予備予選を勝ち抜いて本選に出場できたら世界が変わってくると思います。日本人選手が所属しているようなクラブとやってみたいですね。無名な僕がジャイアントキリングを起こしたいです。

今僕がいるチームは現在3位につけています。このまま残りの半分で順位キープ、もしくは這い上がっていければ、チャンピオンズリーグかカンファレンスリーグの予選には出られるので、頑張りたいと思います。

━━━本日はありがとうございました。

編集:ALLSTARS CLUB編集部
画像:ご本人より提供