バルトメウ時代の負の資産を背負って就任したラポルタ政権

ラポルタ

最も説明が難しい項目の一つとしては、「なぜレアル・マドリードがサッカーとバスケットボールの選手たちに、パンデミックに見舞われた最初の2年間の10%減額に同意させることができたのに対し、バルセロナがロックダウンの数ヶ月間のみ6000万ユーロを減額し、他は先送りされたのか」ということである。バルトメウもラポルタ自身も、当初は契約延長を補完する給与の据え置きや減額に同意してもらうことを選んだが、解決策を生み出せなかった。

ロメウは、21-22年の予算について、「我々は楽観的すぎた」と様々なインタビューの場で繰り返している。その中で彼は、賃金を20-21年の5億9500万ユーロから、4億6500万ユーロまで下げたいと話していた。これは、年俸1億ユーロ以上のメッシの退団によって助けられたが、2020年末に先送りにされた選手の年俸削減の失敗が原因で発生した損失額1億7200万ユーロの方が痛手だ。また23-24には、バルセロナはキケ・セティエンやロナルド・クーマンなどのスタッフと契約を終了する時に支払う5370万ユーロの違約金も含まれる。

年棒の削減は現在の収入の実態に合わせ、選手への支出を調整する唯一の現実的な方法であるため、現在の取締役会はこの点に重点を置いているのだ。「ここで、いくつかの決断を迫られることになる。おそらく我々は中道を歩まなければならないだろうし、多少のリスクを冒しても、我々が望むような形ではない賃金を減らさなければならないだろう」と、ラポルタは数週間前に語っている。

ラ・リーガでは、クラブがサラリーキャップを超えたままであっても、新しい選手の登録が認められるという例外もあるため、「合意または未合意の給与削減の延期」という考え方は初めて棚上げになる可能性がある。なぜもっと前にこのメカニズムを作動させなかったのかは不明だが、経済状況の厳しさが、今年の夏よりも昨年の夏の方が賃金交渉を促せた可能性は高かっただろう。ロメウはテレビニュースにて、「特別な収入が得られるかどうかにかかわらず、これらの削減は絶対に必要だった」と断言した。

ここ最近、バルセロナが選手との交渉で抱えてきた問題は、「正当性」だった。クラブは、補強を求めて市場に戻ることができるよう要求していたのだ。すると、ここで必然的に議論が起こる。「なぜ、新選手獲得への支払いのために、すでにチームに所属している選手がクラブを離れたり給与の削減を受け入れる必要があるのか?」これこそがマテュー・アレマニー(スポーツディレクター=SD)が再び置かれた状況であり、彼ができるたった一つのことは、「より多くのタイトルを競えるようにチーム競争力を高めることである」という事実を守ることである。

マイナス純資産の打破へ向けた資産の売却


クラブが共通で持つ考えは、純資産がマイナスという状況を打破して損失を取り返すには、資産の売却が解決策になるということだ。特に、マーチャンダイジングや興行収入など、国外からの観光客と密接に関係した収入である通常のビジネスの4分の1の部分を回復させなければならない。ただ現在では、これらの分野における収益も回復してきており、最大6億ユーロをもたらすことができるため、迅速に解決する必要がある唯一の現実的な方法となっている。

BLMを売却するという戦法

要するに、小売、放映、下部組織、イノベーションの各事業を持株会社にグループ化し、49%を投資パートナーに売却するという戦略だ。入札の結果、評価額は4億ユーロ以上となり、20-21年の損失軽減のために2億ユーロの特別項目が計上されることになった。

一方のラポルタは、バルサ・スタジオの一部売却で21-22年の予算を均衡させることを決めたものの、売却推定額が低いと判断し、この作戦を拒否した。しかし、その事業部門を交渉していた経営陣が全員解任された上、この子会社単体にはファンドからの関心もなく、さらにチャンピオンズリーグのGS敗退も重なって、5000万ユーロの予算の穴が開いてしまったのだ。挙句の果てに新規スポンサーで得るはずだった2500万ユーロも手にすることができなかった。

ラポルタもロメウも、投資意欲はあると断言しており、デジタル資産の権利を含めれば、放映部門の評価額は3億5000万ユーロ以上になるとさえ話している。現時点での作戦は、まず小売全般を管理する子会社BLMの株式を売却すること。数日前までFanatics社とInvestindustrial社から2億ユーロ強の買収提案があったが、複数の関係者は、バルサの要求が3億ユーロ以上に引き上げられたため、交渉が決裂し、2社が撤退することを指摘している。

この取引が否定されたことで、取締役会は、最低価格や最高価格に縛られることなく売却することになった。さまざまな講演の中で、最大49.9%の出資で2億から3億ユーロの範囲と言及された。さらにラポルタは、今回の取締役会でこの株主の存在が5〜6年に限定されることに言及し、「この権限内で買い戻しができるように取り組んでいる」と明かした。

この買い戻しオプションは、事業計画が達成されれば、この株式の価値はもっと高くなる可能性があることを前提に、どの程度の価格で実行されるかが問題になっている。

ラポルタは、BLMの将来の評価額を12億ユーロと推測している。21-22年の売上高は倍増して5500万ユーロとなり、事実上、パンデミック前の売上高にたどり着くことになるだろう。22-23年、外国人観光客の増加を見込んだラポルタは1億ユーロ以上の収益目標を掲げている。

ただ、現時点で他の提案や選択肢はなく、Fanatics社とInvestindustrial社のコンソーシアムは、すでにバルサ企業全体のパッケージの入札に参加している。2年近く売却オペレーションを遅らせたことが、事業の評価を高め、クラブにとって売却益を最大化することにつながったとすれば、それは、取締役会のメンバーが認可して初めて計上できるものとなる。しかしクラブにもたらされる新しいオファーからは、「20-21年に実行されていれば、最近の移籍市場における運営が容易になっただけでなく、マーチャンダイジングや放映権から得られる新しい収入の開拓を加速させることができたはず」と後悔する形となってしまった。

放映権を売却するという戦法

ラポルタが先延ばしにしているもうひとつのテーマは、ラ・リーガ・インプルソに参加するかどうかだ。表向きではレアル・マドリードとCVCへの反対姿勢を維持しているが、フェラン・レバートがゼネラル・ディレクターを解任された時点で、ラ・リーガとCVCの交渉が再開されたのが真相である。バルセロナの財務担当でラポルタと並ぶ日頃の実力者であるフェラン・オリベと、ラ・リーガのハビエル・テバス会長と親密な関係を持つマテウ・アレマニが中心となって交渉に臨んでいる。

結果として、2週間前にバルセロナはラ・リーガ・インプルソに加入することで基本合意に達し、さらに10%のテレビ放映権をCVCに売却する方向に進んだ。合計で5億4000万ユーロが投入され、BLMの売却と合わせると約8億ユーロになる。損失を取り戻し、選手を登録するという点で正常な状態に戻すには十分な額だ。

しかし、テバスとラポルタの新たなやり取りが公開されると、取締役会でも表明されていたことが、急に方向転換することとなった。2Playbookの調査によると、その数日後にCVCとの計画は取り消されたという。6月2日、バルセロナは、25年間のテレビ放映権の10%のみを2億5000万ユーロ以下で、BLMを2億7500万ユーロ以上で売却することを希望する新たな計画を発表した。それが、条件も買い手もわからないまま、取締役会のメンバーが議決を求められるのだ。

ロメウは、ソシオへラポルタ政権を信頼するよう要求したが、合意する条件を明確にすることはなかった。また同氏は、BLMの要求が緩和されない場合、最も好まれないものの、最も簡単なルートは、放映権の売却であることを認めた。

放映権とBLM売却以外の選択肢

エスパイ・バルサ

資産売却、収入回復、給与削減の他に、もっと技術的なオペレーションがあるはずだ。1億6000万ユーロの減価償却費を1年前に繰り越さなければ得ることが不可能だったキャピタルゲインの存在を忘れてはいけない。また、回収不能とされたナイキからの2400万ユーロを含む9000万ユーロの訴訟についても、どの段階に達したかは不明。しかし、その疑念が払拭されれば、特別利益を得るという逆転現象が起こるかもしれない。

同時に、理事会はクラブの資産、特にカンプノウの不動産資産に関して、簿価を更新する選択肢を検討しているとEl Confidencial紙は伝えている。この動きによって、不動産資産の価値を市場価格に近づけることができれば、クラブは4億5000万ユーロ以上の財務利益を計上することができる。純資産がマイナスになる状況を解消するのに十分だ。

ただし、この動きの問題点としては、固定資産は減価償却費として将来費用が発生するため、その場しのぎにしかならない。特に、不動産の償却期間は長く、25年から50年に分割されるため、基本的には他の収益化計画とあまり変わらなくなる。

このように、ネイマールをPSGに売却した時から全てが狂ってしまったバルセロナ。ピッチ上での成績はそれほど悪いものではない(21-22年の初めは悪かった)が、経営面は瀬戸際に立たされていると言えるだろう。実際バルセロナを離れる経営関係者も続出しており、いかに状態が悪いかが分かる。今後どのような手を打たれるのか目が離せない。