メッシ

2021年夏、長年在籍したバルセロナを離れ、フランスリーグ1の強豪パリ・サンジェルマン(PSG)に移籍することとなったアルゼンチン代表リオネル・メッシ。最初のシーズンとなった21-22年は、バルセロナ時代の5分の1から6分の1程度のゴール数に終わり、フランスリーグ1ということも考えると本来の姿を見せることができなかったと言えるだろう。

また、チーム自体もリーグ優勝は果たしたものの、悲願のチャンピオンズリーグ制覇はならず(ラウンド16敗退)。PSGは、メッシ、ネイマール、ムバッペ、ディマリア、ヴェラッティ、マルキーニョスなどの超一流選手を擁しているが欧州の舞台では弱い。

ところで、メッシがチームのブランド全体に与える影響は、PSG会長のナセル・アル・ケライフィにさえ驚きを与える。実際、メッシ獲得による収益は予想以上だったと述べている。

メッシはフリー移籍であったため、移籍金はかからなかったが、契約金は3000万ドルで年俸は4000万ドル(2年契約・3年目のオプション付き)だったと言われている。

このような大きな移籍が実行された場合、メディアに最初に取り上げられる題材として、「ユニフォームの売り上げによってチームがその選手と契約するために費やしたお金を取り戻すことができるだろう」という内容がある。イメージ的には「メッシ、背番号30」のユニフォームが何枚も売れることで、PSGはメッシの高額な年俸と契約金を賄えそうだが、実際はどうなのか。

クラブに入るのはユニフォーム売上高の7%

PSG

結論から言うと、サッカーチームがユニフォームの売り上げから大部分を取り戻すことはできない。

一般的に、ユニフォームメーカーがチームにお金を払ってスポンサーになる場合、彼らはライセンス契約を結ぶ。ブランドは製品を生産し、流通させ、チームはそのブランドから年間契約金を得る。このような取引では、ユニフォームの販売に関して、チームは通常、販売したユニフォーム1枚につき売上の7%程度しか還元されず、残りの利益はメーカーに還元されるという。

しかし、このような関係性は両者にとってメリットのある関係になっている。クラブには大量の商品を流通させるインフラやネットワークがないため、マーチャンダイジングを任せることができ、一方でブランドは、世界レベルで人気のあるクラブのスポンサーになることで多くの人の目に止まることになる。

その一例が、アディダスとマンチェスター・ユナイテッドとの契約だ。アディダスは2014年に約13億ドルを支払い、2015/16シーズンから10年間ユナイテッドのスポンサーとなったが、これはチームにとって推定1億ドルの年間収入に相当するものである。一方で、アディダス側は、期間中の総売上高が20億ドル以上になると述べていた。当時、英メディアでは「記録的な取引」と称された。

しかし、すべてのユニフォームスポンサー契約が同じとは限らない。Football Insiderによると、ナイキを着用するリバプールは、ユニフォーム1枚あたりの売り上げの20%程度を受け取る代わりに、2021年には4000万ドル程度の低い年間契約金であったと言われている。


メッシの年俸を補うには400万枚の売上が必要

メッシさて、話が外れたが、PSGとナイキの契約について見てみよう。2019年から2032年まで続く同契約だが、PSGは推定で年間9500万ドルを得ることになるとされている。ナイキがPSGにこのような高額を支払うのは、PSGというビッグクラブの名を借りるだけでなく、初期投資を回収するためでもある。

ここで、PSGがメッシの名前と背番号の入ったユニフォームを何千枚も売れば、メッシに費やしたお金がクラブに戻ってくるという本題に戻る。ある試算によると、1枚のユニフォームが売れるごとに7%がクラブに還元されるというが、メッシの4100万ドル(3832万ユーロ)という1年目の年俸を支えるためには何枚売る必要があるのか。

メッシの名前と背番号が入った通常のナイキのレプリカユニフォームは135ドルで、試合中に選手が着用する試合用ユニフォームは195ドルである。多くの人が、レプリカを買うだろうから、PSGはジャージ1枚から9.45ドルしか稼げないことになる。

メッシの年俸の1年分をユニフォームの売り上げから得るには、そして、試合用ユニフォームのために60ドル余分に払う人がいるかもしれないことを考えると、PSGがメッシの年俸を補うためにユニフォームを1年で少なくとも400万枚売る必要がある。

参考程度に、市場・消費者データサイト「Statista」によると、18-19年、世界で最もユニフォームが売れたチームはマンチェスター・ユナイテッドの325万枚、次いでレアル・マドリードの312万枚、バイエルン・ミュンヘンの257.5万枚が続く。

つまり、PSGが収支を合わせるには、ユナイテッドのユニフォームの販売数を大幅に上回る必要がある。ただ、PSGには、ムバッペ、ネイマールといったスーパースターも在籍しており、PSGのユニフォームを新たに購入する予定のファンや、すでにユニフォームを購入しているが、新しくメッシのユニフォームを買おうとするファンもいるため、極めて低いものの可能性は0とは言えない。実際、メッシのユニフォームは、PSGとの契約が発表された際に15万枚発売されたそうだが、わずか7分で売り切れた。

ここまで、ユニフォームの売上高とチームへの収入の関係性について見てきたが、クラブが受け取れる額は意外と少ないことが分かる。先日、PSGが20-21年に約2億ユーロの損失を出したことが発表されたが、今後どのように資金を賄っていくのか注目だ。